救いを求め、堕ちてゆく救いを求め、堕ちてゆく

愛のまなざしを2021年11月12日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、イオンシネマ他にて全国順次公開!

仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
万田祐介 松林うらら
ベンガル 森口瑤子 片桐はいり
監督:万田邦敏
2020年/日本/日本語/102分/英題:Love Mooning/HD/カラー/Vista/5.1ch/
©Love Mooning Film Partners
#愛のまなざしを
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『UNloved』『接吻』の鬼才・万田邦敏監督による愛憎サスペンス。愛するほどに、それは奪われていく―『UNloved』『接吻』の鬼才・万田邦敏監督による愛憎サスペンス。愛するほどに、それは奪われていく―

Introduction

妻を亡くしたことで、もう二度と誰も愛せないと思いつめ、生と死のあわいを彷徨うように生きる精神科医の前に現れたのは、彼を救済するかのような微笑みをたたえた女だった。堰を切ったかのように女に溺れていく、愛を求め続けても誰からも返されることなく孤独の果てを彷徨ってきた。二人はそれぞれの日常を捨て、激しく求めあう。しかし、女には別の顔が存在した…。男が信じた愛は、そこに確実に存在したのか。そしてそれは「愛」そのものであったのか  。
これまでも強烈な自我を持つ女性を軸に、狂気ともいえる愛を描いてきた鬼才・万田邦敏監督が、カンヌ国際映画祭にてW受賞した『UNloved』、比類なき傑作『接吻』に続き、共同脚本・万田珠実と三度目のタッグを組んだ。「愛」の本質を見つめ、人間の性とエゴをあぶりだした愛憎サスペンスが誕生した。

精神科医・貴志を演じたのは、万田監督作品『UNloved』『接吻』でキーパーソンを好演した仲村トオル。貴志からの愛を渇望する綾子役は、監督、プロデューサーとしても精力的に活動する杉野希妃が演じ、女の業を表現した。死んだ姉に焦がれ、綾子の登場により翻弄されるも真実をつかもうとする茂役には、監督、プロデュースなど肩書を超えて活躍する斎藤工。映画やドラマ、舞台でしなやかな演技力が光る中村ゆりが、六年前に亡くなった貴志の妻を演じる。貴志の息子・祐樹役として十代の繊細な心の揺れ動きを表現した藤原大祐は、オーディションで役を掴み、本作で映画デビューを飾っている。その他、片桐はいりベンガル森口瑤子万田祐介松林うららが脇を固める。

愛なのか、憎しみなのか、もはやその区別さえ失ってしまった境界線に生きる男女の物語は、多くの映画作家により綴られてきた。その線上に位置づけられることになるであろう『愛のまなざしを』は、女の愛の強靭さを見抜き、その覚悟を見せつける、強烈な愛の物語となった。

Story

亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求める。いっぽう妻の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始めるのだった  。

Director

万田邦敏監督

万田邦敏監督

Kunitoshi Manda

1956年生まれ。映画美学校講師、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
立教大学在学中、黒沢清らとともに自主映画製作を行う。大学中退後、黒沢清の『神田川淫乱戦争』に美術として、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』に共同脚本、助監督として参加。その後PRビデオ、TVドラマの演出を経て、96年、押井守総合監修による実写SF『宇宙貨物船レムナント6』で商業映画監督デビュー。2001年長編処女作『UNloved』がカンヌ国際映画祭にてエキュメニック新人賞、レイル・ドール賞をW受賞。2004年に『あのトンネル(The Tunnel)』がカンヌ映画祭監督週間に招待された。小池栄子と豊川悦司を主演に迎えた『接吻』(07)は、全州国際映画祭のオープニング作に選ばれた他、高崎映画祭の最優秀作品賞、ヨコハマ映画祭の脚本賞&主演女優賞、毎日映画コンクールの主演女優賞を受賞。その他の監督作に『ありがとう』(06)、『イヌミチ』(13)、『SYNCHRONIZER』(17)など。
著書に『再履修とっても恥ずかしゼミナール』(港の人)、共著に『映画の授業 映画美学校の教室から』(青土社)がある。

本作のラストをどうするか、じつは撮影中に二転三転した。決定稿では、主人公の男女は最後まで闇の中に宙づりにされたままだった。ところが、撮影中にそれではこの二人がなんだか可哀想に思えてきた。救いがなさ過ぎると思った。男も女も本気で愛し合ったのだし、本気で憎み合ったのだ。その本気を最後に突き放したままでいいのだろうか。そう思わせたのは、役を演じる目の前の仲村さんと杉野さんの身体が、意識せぬまま、己が演じる男と女の救済に向けて動き、発話し、沈黙していたからなのだと思う。初めは、二人自身も私もそのことに気付かなかった。二人の結末に最初に違和感を感じたのは、ずうっと撮影を見続けていた脚本を書いた珠実そのひとだった。愛する者が苦しんでいるのなら、その苦しみを分かち合いたい、苦しみから救ってあげたい。珠実は、仲村さんと杉野さんの芝居する身体が発するサインを目ざとく読み取ったのだ。撮影の合間を縫って二人に相談してみると、「そういうことだったのか」と二人も納得。だったらあれは、これはといろいろとアイデアは出てくるし、二人の身体にもそれまで以上に開放感、伸びやかさ、自由さが増した。こうして、映画の最後(それは撮影終了日でもあった)に杉野さん演じる綾子は満面の笑みを見せることになった。決定稿とは真逆の結末に、私たちはみな満足してクランクアップしたのである。

Comments

順不同・敬称略
  • そのショットの無駄のない連鎖によって、『愛のまなざしを』の万田邦敏は世界でもっとも聡明な映画作家の一人であることを証明してみせた。このファムファタルのサスペンスに向かい合う俳優たちもまた、聡明きわまりない。あとは、観客の聡明さが問われるのみである。
    蓮實重彦(映画評論家)
  • ヤバい女に関わるな!
    例えそれが仕事だとしても、、。
    ミイラ(患者)にハンドリングされるミイラ取り(精神科医)。
    血の滴る心理ゲーム。
    見終わってからも脳がストーリーを反芻し、痺れ続けた。
    秋吉久美子(女優)
  • 亡妻を演じる中村ゆりの台詞が屹立している。これは罪悪感に苛まれる仲村トオルの幻影であり、言葉は彼自身の潜在意識が与える責め苦としてあるが、一方でこれは(おそらく)万田珠実の手による台詞であり、それを万田邦敏が受け取り演出している。結局、言葉は「男のもの」「女のもの」「誰のもの」という所有を離れた場所で響き、誰の胸にも痛いほど突き刺さる。最高だ。万田映画だ。やがてこわれゆく仲村トオル、必見!
    濱口竜介(映画監督)
  • 己を激しくぶつけ合う登場人物たちの姿が、はじめは苦しかった。
    互いに補い殺し合いだんだんと消えていく己に代わって、いつの間にか彼らの間に生まれていた不思議な秩序に、最後はなぜだか安らぎを覚えた。
    横浜聡子(映画監督)
  • 情念の言葉と、情念を押し殺す演出。そしてそれが、万田夫妻の映画を芸術たらしめている理由である。
    真魚八重子(映画評論家)
  • 二人の出会いの場面が気になる。
    二人以外の人物たちのまなざしも気になる。
    いやそもそもファーストカットからして気になる!
    三宅唱(映画監督)
  • 現実なのか精神世界なのか。本当なのか嘘なのか。みんな誰かを愛してるし憎んでいる。絵画を見ていたら、いつの間にか中の世界に引き込まれていて、出口がわからなくなった人みたいになって楽しんだ。
    二ノ宮知子(漫画家)
  • こんな時代とはいえ、陰険過ぎる世界に爆笑してしまいそうになり…笑えないのはこれが醜悪過ぎてリアルな恐怖映画だから…だが、この作品に登場するすべての人々が純然たる「愛」に満ちた万田監督の優れた演出によって目の前に存在しているのだと気づいてからは、世界が美しくて逆に最後の最後まで涙が止まらなくなった。
    中原昌也(ミュージシャン・小説家)
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